2020年の7月31日を期限とした(何回か期限が延長された)パブリックコメント(多核種除去設備等処理水の取扱いに関する書面での意見募集について)に私は下記の意見書を提出した。「熱塩循環の深層水形成域から下降流に放流する」と言う対案を提示したのは、陸上処理を拡充して海洋放出はすべきではないと言う意見ではいずれ汚染水が溢れ出ると言う理由で表層水への放出が強行されると考えたからである。
意見書では、一先ず問題提議の積りで、熱塩循環の説明など詳しい内容は記述しなかった。
しかしその後何人かの人と話した結果、何の説明もなくただ単に「熱塩循環(海洋大循環)(以下、熱塩循環とのみ表記)」と言っても反応が余り良くない事に気が付いた。
そこで、ここでは熱塩循環についての説明を付け加えるとともに、遠洋での投棄に伴う問題点とコストまで話を進めて、今後の処理の議論の一助となることを試みる。
熱塩循環について書いたもの(図)はかなり多いが、下の図は”深層水形成域“まで示されていて使いやすいのでここで用いる事にした。下記のサイトから取り出した。
http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~shw/space2/%E7%AC%AC24-28%E7%AB%A0.pdf
熱塩循環は海洋の表層と深層を循環する海水の動きで、1,000年から2,000年かけて循環しているとされる。図には4カ所深層水形成海域が示されているが、ここで深層に潜り込んだ海水が次に表層に戻って来るのは500年後から1,000年後になる。後でも触れるが、仮に処理水の中に残る放射性物質がトリチウムだけだとすれば、トリチウムの半減期は12年なので500年後に表層に戻った時にはトリチウムの放射能は1/2^40(2の40乗分の1)であり、ほぼ0(零)と見做して良い。深海生物には迷惑な話だが、深海にすむ生物の種類と量は限られており、人間への影響は回避できる。トリチウムの生物への影響については、水と同様に動いており影響はないとする見解もあるが、これは受け入れられない。
スイスの研究者ヘッセ・ホネガーの研究によれば、原発周辺の昆虫の全先天異常・形態異常は原発のない地域の異常の発生率と比べて顕著に高くなっており、これにトリチウムが影響していると推測している。(『「脱ひばく」命を守る』松井英介著 花伝社刊より)
トリチウムはβ各種で海水中に遍在すれば広範囲の魚介類に影響すると考える方がむしろ自然である。
風評被害と言うよりも実際に魚介類が汚染される事を恐れるべきである。
ただし、深層水形成海域まで持って行くと言っても周辺国の了承を得るなど多くの解決すべき問題がある事は否定できない。しかし、後述するように、トリチウム以外の半減期の長い核種が含まれていては了承を得る事は非常に困難であろう。トリチウム以外の核種をとことん除去する事が前提となる。
輸送コストについては、原油や天然ガスの輸送コストを想定すれば、要するに経済活動に甚大な影響を及ぼすほどのものでない事が分かる。さらに言えば、原油や天然ガスを輸送するタンカーは積み込み基地まで空で運行しているのだから、処理水を積んで北極海まで行って帰りに中東やアメリカのフロリダで荷物を積んで帰るようにすれば、処理水輸送の純コストはかなり抑制される。
以上がこのブログを書き始める時点で考えていた内容である。
しかし、これを書くために調べ物をしていたところ、下記のサイトを見つけた。
https://www.foejapan.org/energy/fukushima/200407.html
この中で問題となるのは以下の記述である。
トリチウム以外の核種が高濃度で残存する処理水を他国の近くまで持って行って投棄する事は出来ない。
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